14.助け合う精神が平和の礎

2011年5月3日

 まだ3月11日に勃発した東日本大震災の余波は続いている。これが解決するにはかなりの時間がかかるだろうと言われている。

 今回の東日本大震災で、様々な面で日本という国が良い意味でも悪い意味でも世界で知られるようになった。良い意味は、このような大震災に遭っても、略奪や殺人などがほとんど起こらず、秩序をもって互いに助け合う和合の精神が世界の人々に感銘を与えたことである。悪い意味では、日本は広島・長崎で原子爆弾の被爆国であり、被害国として世界に原爆の消滅を願う平和的メッセージを発しながら、かえって原発事故によって加害国に転落したことである。

 今回の大震災という有事に活躍したのは、自衛隊や警察官や消防隊の他ボランティアなどであり、同盟国として日米安保を通して駐留していた米軍である。自衛隊は国家を守る軍事組織でもあるが、未曾有の危機に際してはそのノウハウと献身的精神で災害からの復旧に身を挺した。国難は戦争時のみではないことを改めて今回の自衛隊の活躍によって知らされた。また、アメリカは物心両面にわたって日本のために空母を派遣し、ボランティア活動に全面的に支援活動を行った。この活動が新聞やテレビであまり報道されないのは偏向しているといわれても仕方がない。

 非常時には、国家の危機が訪れるが、その時にこそ、こうした防衛意識が正しく理解されなければならない。国家の形がしっかりしていなければ、大震災という有事だけではなく、その他の危機にも対処できないことを知るべきである。

 また、今回の問題点は福島原発事故の対処が後手後手にまわり、その危機的状況も、情報が小出しになって、正しい状況が世界に伝わらなかったことがある。これは日本だけの問題ではない。放射能を含んだ汚染された海水を放水したことによって、漁業に多大な打撃を与え、それは海でつながっている各国の水産業へも悪影響を及ぼした。

 また、放射能を含んだ雲が風によって運ばれ、日本の国境を超えてチェルノブイリの事故の悪夢を世界にまき散らした。原発事故の被害地である福島県の野菜や牛乳、土地に雨による放射能物質が検出されたことも記憶に新しい。

 その意味では、世界が多くの国家で形成されているという事実に改めて気づかされたと言えよう。まさに、世界は単独に孤立して存在しているのではなく、互いに助け合い、補うような関係、産業界、経済関係が世界と緊密に連帯していることを自然に教えてくれたのである。世界と日本は家族のように互いに依存しあっている。それは、まさにグローバリズムの時代の国際関係である。

 その意味で、日本の被災は日本だけの問題ではない。世界経済の動向や政治にも影響を与える事態なのだ。世界平和というものがこれほど身近に感じられた事態もないのである。共産主義や社会主義の国家、北朝鮮や中国からも支援の手がさしのべられ、台湾や一衣帯水の韓国もいちはやく援助を申し出た。韓国ではフィギュアスケートのキムヨナ選手が賞金の寄付を申し出たほか、韓流スターのヨンさまや多くのタレントが支援金を送ってきた。

 在日出身の孫正義ソフトバンク社長も個人資産の百億円を贈ったほか、原発の代替エネルギー研究に十億円を投じた。また、アメリカなどの経済大国だけではなく、中近東のイスラム国家やアフリカの貧しい国家からも義援金が寄せられるなど、その支援の輪は国境や主義主張、イデオロギー、宗教や民族の違いなどを超えているものがあった。

 同じ人類として助け合う。困った者に手助けする。援助をする。まさに、恩讐を超えた人道的な助け合いの精神の発露と言えよう。その意味で、世界に対しても、国内においても恩返しをしなければならない。特に、同じ国に住む在日コリアンのなどのマイノリティーに対して助け合いの精神を発揮する必要がある。それこそ多民族共生社会である。これもまた、新しい時代の日本人の心の開国と言える。

 今回の大震災は、未曾有の危機でもあるが、また、日本の再生への出発であることを改めて知らなければならない。

平和大使在日同胞フォーラム代表 鄭時東(チョンシドン)

【参考リンク】 東日本大震災に対する国内の支援活動(Wikipediaより)
【参考リンク】 東日本大震災に対する日本国外の対応(Wikipediaより)

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