46.百年前の愚を繰り返すな

2014年1月1日

 「歴史は繰り返す」という言葉がある。古代ローマの歴史家クルティウス・ルフスの言葉から来ているが、辞書では「いつの時代も人間の本質に変わりないため、過去にあったことは、また 後の時代にも繰り返して起きるということ」を意味している。

 ここから歴史を現在に生きる者の教訓や知恵を学ぶための材料として研究していく姿勢が生まれている。単なる事実を発掘するだけではなく、現在をよりよく生きるための反省材料として歴史を記録するのである。

 日本の平安時代の歴史書が「大鏡」「水鏡」などと「鏡」と名付けられたのも、過去の事象を鏡に写して現在のみずからを顧みるという、同じような視点から来ている。現在を知るには、過去の歴史を振り返ってみることでよくわかることがある。

 2014年の年頭にあたり、この言葉を噛み締めてみると、かつて世界を悲劇に巻き込んだ百年前の出来事が思い浮かんでくる。それは1914年6月28日に起こった「サラエヴォ事件」である。

 これは、オーストリア・ハンガリー二重帝国の皇帝フランツ・ヨーゼフ一世の甥で皇位継承者であったフランツ・フェルディナント大公がサラエヴォにおいて妻と共に暗殺された事件である。この事件によって、一地方に起きた暗殺事件が世界的な戦争の導火線となった。

 当時の世界情勢は、当事者のオーストリアやドイツ、ロシア、フラン ス、イギリスなどの国益や複雑な同盟関係(三国同盟、三国協商、日英同盟など)もあって、ドミノ的に世界大戦になだれ込んだ経緯がある。そこには、民族問題やナショナリズムや国威発揚のための軍拡競争など、火を投ずればすぐさま発火するという一触即発の状態が背景にあった。

 ひるがえって、現在の東アジア情勢を見たときに、この百年前の第一次世界大戦勃発前の状況に、やや似た要素が見られるといっては言い過ぎだろう が、戦争を引き起こすような危険な緊張関係にあることは間違いない。

 東アジア情勢は民族主義の高揚、そして、ナショナリズムの高まりなどが渦巻いている状況である。中国の軍事重視による膨張主義や日韓関係の冷え込みとそれによる中韓の接近、ナンバー2と見られていた張成沢氏の粛清を通じて先行きが読めない北朝鮮、また、日本では安倍首相の靖国参拝によって日米関係の微妙なゆらぎなど、各国の複雑な同盟関係に影を落としている。

 その意味では、それぞれの国家が抱える問題がいつ沸点に達して爆発してもおかしくないような状況といっていいだろう。そして、これは百年前の第一次世界大戦の導火線となったヨーロッパの緊張関係と相似していると言えないこともないのである。

 改めて「歴史は繰り返す」という言葉を思い出さざるをえないほど、緊迫した緊張関係をわれわれは軽視してはならないだろう。中国、ロシア、北朝鮮、韓国、日本、米国をめぐる小さな対立や外交問題のこじれが積み重なり、いつ発火点となって悲劇的な事態を迎えるかわから ないのである。

 少なくとも、東アジア情勢の安定の要だった民主主義国家の日韓米の長年の蜜月状態が、ここに来て少しずつゆらぎ、崩れていくような不安要素を抱 えていることは懸念材料として無視できないといっていい。しかも、韓国と北朝鮮の緊張関係は、朝鮮戦争(韓国動乱)以来、かつてなく緊張し、互いに警告を発し、今年は武力衝突へ引き金を引きかねない状態になっている。

 中国もロシアも少数民族の紛争をかかえ、米国でもイランとの問題等でも暴発の可能性を秘めている。このままでは米ソ冷戦の再現、最悪の場合、東アジアを中心とした紛争、そして動乱、本格的な戦争へと発展することさえあるかもしれない。

 だからこそ、過去の歴史を教訓として、特に百年前の愚を犯さず、われわれは今年を「平和」的な交流を活発化し、特に在日同胞と日本の対話による相互理解を以前よりも増して深め、互いに平和的な関係を再構築しなければならない元年としなければならないのである。

平和大使在日同胞フォーラム代表 鄭時東(チョンシドン)

【参考リンク】 第一次世界大戦(Wikipedia)
【参考動画】 教材 第一次世界大戦(You Tube)


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