64.歴史から国家関係を考える

2015年7月1日

 現在、世界の国家が形成されるようになったのは、もちろん、歴史的背景を文明という観点から考えれば数千年以上の時間が流れている。といっても、古代に成立した国家がそのまま近現代の国家へ繋がっているわけではなく、そこには異民族同士の国家の興亡の歴史が流れている。

 同じ大地に建てられた国家でも、その民族・宗教が入れ替わり、まったく違った文化がそこから出発することも多々あったのである。それはヨーロッパの古代ギリシャ・ローマの歴史を見てもそうであり、東洋では中国の歴史を見ても、王朝交代はほぼ漢族と異民族の攻防から生まれている。

 ただし、中国の場合は、異民族王朝だとしても、その統治の根底には中華主義、すなわち古代中国に形成された国家の理念、儒教などの政治思想が共通理念として流れているために異民族支配がそのまま異文明の支配ということにはならない。むしろ異民族が中華思想に同化し、それを継承することで、一貫して中国の王朝が成立したという感じがあり、王朝交代がそれほど異質な印象を与えない。

 その意味で、中国文明は儒教などという思想・宗教が背骨になっているといえよう。同じようなことはトルコなどの中東のイスラム文明圏やヨーロッパ文明のキリスト教文明圏についても言え、イギリス・フランス・イタリアなどは、このキリスト教文明国家同士の興亡が近代国家成立の背景になっている。そのために、国家同士が王家の婚姻関係で、ある意味で緊密な関係が国家の国益の対立の中でも、一方で繋がっている歴史でもあった。それがEUなどの共同体の理念の背景にもなっていることは言うまでもない。

 そのように近代国家は成立までには、戦争などの対立もあったが、貿易や文化などの交流によって互いに影響し合い、共存してきた歴史がある。東洋文明においても、中華文明は時に侵略による領土拡大の戦争の歴史でもあったが、もう一方は儒教による「華夷(かい)秩序」「冊封(さくほう)体制」による平和な秩序を生み出している。そのような巨大な時間が流れていくことで、現在の世界秩序が形成されてきていることを改めて考える必要がある。

 すなわち、国家関係を考える上では、短期的な時間観念で判断するだけではなく、長期の歴史時間が経過しなければ解決できない問題もあるということである。国家はたとえ古代国家であっても、その民族だけで単独で成立し、他の民族や国家と無関係に存在し続けることはない。そこには物資や文化の移動、シルクロードではないが、文物の移動と交流による相互影響関係が成立している。

 また、それはそのような新しい文化技術をもった人々の移動によって文化が発展してきたことを忘れてはならない。

 現在、日韓・韓日国交正常化五十周年を迎えた日本と韓国の関係は、膠着状態を迎えていたが、このほど五十周年の記念の日に、安倍晋三首相と朴槿恵大統領は互いに相手国が主催した記念式に参席するという歩み寄りをみせたことは評価されるだろう。だが、歩み寄りをしても、まだ具体的な首脳会談という日程は決まっていない。隣国同士の関係としては、たとえさまざまな問題があっても、未来志向において、友好関係を維持していくことが重要である。

 その意味で、日本と韓国の二千年にわたる交流のことを思い返し、長期的な展望を再構築していかなければならないだろう。そのような相互影響を支えてきたのは、人的交流であり、古代の渡来人、近世の朝鮮通信使、そして、現在では在日同胞や在韓日本人などを中心とした草の根における絆であり交流である。

 このことを改めて振り返って、日韓・韓日関係のさらなる発展を願いたい。

平和大使在日同胞フォーラム代表 鄭時東(チョンシドン)

【参考リンク】 中華思想 (Wikipedia)

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