37.平和と和解の女性の時代

2013年4月1日

 古代ギリシアの喜劇作家のアリストパネスは、戦争と平和をテーマにした喜劇『女の平和』を書き上げた。これは、当時ギリシアを代表する都市国家(ポリス)だったアテネ(当時はアテナイ)とスパルタの戦争、ペロポネソス戦争が舞台になっている。紀元前六世紀から五世紀にかけての古代アテネは文化や芸術の黄金時代を迎え、政治的にもアケメネス朝ペルシャを破って一躍都市国家の中で、指導的強国となった。

 この黄全期のアテネからは、民主王義のルーツといわれるアテネの直接民主制やパルテノン神殿、アクロポリスなどにみられる建築や数々の傑作彫刻などの芸術が生まれた。また、学問、哲学の中心となり、西洋文明の揺籃(ようらん)となったプラトンが創建したアカデメイアやアリストテレスのリュケイオンなども創建されている。

 人々は繁栄の中で人生を謳歌したが、その繁栄の基礎を支えていたのは他の都市国家と結んでいた対ペルシアヘの戦時協定、デロス同盟のゆえである。この同盟によって、他の多くの都市国家との盟主という立場で、アテネが豊富な資金を管理していたからでもあった。

 だが、この繁栄はペルシアを決定的に破って戦争の脅威がなくなって平和な時を迎えたとき、アテネとの他の都市国家の軋轢(あつれき)を生むようになった。特に、アテネと並ぶ強国である軍事国家のスパルタと争い、戦争は主導権を賭けて長年続く。それがペロポネソス戦争だった。

 この戦争が長引くにしたがい、アテネの繁栄に翳(かげ)りがみられるようになった。アテネによるシシリア遠征でアテネ海軍が全滅し、兵力と多くの優秀な人材を失い、さらに国力の低下から周囲の同盟諸都市の離反が相次いだ。人々は長年の戦争で家族や友人を失い、平和を待ち望む機運が生まれた。

 この暗い時代を背景にして、喜劇作家のアリストパネスは一貫して平和主義を唱え、それを作品にして発表した。その作品のひとつが『女の平和』である。この作品は、長年の戦争が続く中、夫を戦争に徴発された女性たちが、男性たちに「平和」協定を敵側と結ぶように説得しようとした話になっている。

 だが、男たちがそのプライドと頑固さから、なかなか平和を結ぶことができず、戦争を止めさせることができないのを見限って女たちが自分たちで戦争を終結させようと相談する。そのために、女たちは敵側の女たちにも呼びかけて、軍資金を断つためにアクロポリスを占領し、そのほか夫に対して断固としてセックスを拒否するストライキを行うように提案した。

 当初、女性を甘く見ていた男たちだったが、その決意が固く、拒否が長引くにしたがい、音を上げてしまう。かくして、男たちは女たちの平和なストライキに手を挙げて降参し、平和協定が結ばれ、戦争が終わるという結末を迎える。

 これはもちろん、喜劇であって現実ではない。一種のユートピア思想と言えるものだが、いかに女性たちが家庭を中心に平和を願い、敵とも和解する原動力である母性愛をもっているかがよくわかる物語である。

 このような古代アテネに生まれた女性による平和への行動は、現在の戦争と紛争が絶えない男性中心の世界政治にも応用できる示唆に富むものがある。実際にも、現在の世界の政治には女性リーダーが数多く誕生し、韓国においては史上初の女性の朴槿恵大統領が誕生している。

 この女性の時代を切り開く朴槿恵大統領の時代に、長年の懸案であった南北平和統一、韓日の平和、そして、アジアの平和時代が切り開かれることを願いたい。また、このような和解と平和の時代、日本においても、国内に存在する在日コリアンが協力して一つになって祖国の平和統一を実現していくことが重要である。それに日本が協力することで、日本も繁栄するのである。

 その原動力になるのは、母性愛による敵も味方も抱擁する精神と互いに為に生きる精神、共生共栄共義の精神であることは間違いない。

平和大使在日同胞フォーラム代表 鄭時東(チョンシドン)

【参考リンク】 女の平和(Wikipedia)

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