16.潘基文国連事務総長の再任に思う

2011年7月3日
国連責任者として初めて広島市の平和
記念式典に参列した潘基文国連事務総長
(2010/8/6)

 潘基文(バン・ギムン)国連事務総長が第二期目の再任が決定した。世界平和の構築に向けて韓国出身の事務総長として、今後五年間の舵取りがゆだねられた。

 国境を超えてグローバルな立場で活動する国連のトップである事務総長の任期が一期五年というのは、なかなかその能力や実績を目に見えるものとして発揮するには短い時間でしかない。その意味では、基本的に短期間で交代するよりも、余程の失政や問題がないかぎり、その才腕をふるう時間が延長されることは基本的に歓迎すべきだろう。

 その点で、潘事務総長の二期目が混迷に満ちた世界情勢を正しく収め、恒久平和へのいしずえになることを切に願っている。

 また、それだけの成果を出すことが国連事務総長という立場には期待されている。これまで、潘事務総長の手腕に対する評価は、ほぼ実務家として無難な国連運営をやってきたというものである。それを凡庸と非難する見方もあり、反対に難しい舵取りをバランスよくこなしてきたという評価もあり一定していない。目に見える成果はそれほど見えないが、破綻なく運営してきた政治手腕があるということ。それが、このたびの再選につながったということになる。

 しかし、今後の二期目の五年という歳月は、そうした平均値的な評価に治まっていてはならない。国連を取り巻く世界情勢、環境など、あまりにも平和を破壊する要因が数多くあり、その方向性を間違えば、地球規模の破壊やクライシスは間違いなく多大な損害を与えるに違いないからだ。それほど人類が営んできた地球船宇宙号の航行は、タイタニックが氷山に衝突して沈没したように、危機的な状況のまっただ中にある。

 このことは、今の世界情勢や環境問題などをふりかえればいい。アフリカのチュニジアに端を発した「ジャスミン革命」は、多少の犠牲者を出したとはいえ、当初は静かな革命であり、その象徴的なものがエジプトのムバラク前大統領の長期独裁政権の崩壊だった。

 民衆の手によって政治改革がなされ、平和な革命運動として「ジャスミン革命」は多くの独裁国家の下にある民衆に希望を与えた。ドミノ現象はアフリカから中東へと移り、大きな世界情勢の平和的な変動を予感させた。

 しかし、今やそのような期待を裏切る事態を生んでいる。リビアでは、カダフィ大佐が権力の委譲を拒否し、軍事力をもって民衆を弾圧し、内戦状態が長期化し、犠牲者も数多く出ている。

 そして、それはリビアだけではなく、シリアやイエメン、イランなどの中東へ波及し、流動的で不安定な情勢が巻き起こっている。それは民主主義という名を借りた宗教紛争(イスラエルとパレスチナなど)や部族間抗争という側面さえある。それだけに対立の根が深く、解決はかなり難しい。

 世界が抱えている危機はそれだけではない。人口の爆発による食糧危機、有限な化石エネルギーの枯渇とその代替エネルギーの原子力の事故による放射能の空中散布、海水汚染、それによる世界規模の健康被害である。

 チェルノブイリやスリーマイル島やその他の事故は、事故が起きた時から年月も経過しているにもかかわらず、その被害や影響はいまだに忘れられていない。その象徴的なものが、今回、3・11東日本大震災による多数の犠牲者を出し、大津波によるフクシマの原発事故であり、時々刻々と日々伝えられている状況は、世界中の人々の関心を引いている。潘事務総長は国連の責任者として初めて広島・長崎を訪問した。

 これもまた、日本一国だけで解決できる問題ではない。なぜなら、世界では多くの国々に原子力発電所があり、電気をまかなうために稼働しているからである。そのどれかが事故によって爆発しても、チェルノブイリや福島のような被害を世界にもたらす恐れがあるのである。

 その意味でも、国連が主導権をもって、環境問題やエネルギーの問題を解決するための道筋をつけなければならない。何事にも、植えた種を育て、花を咲かせ、実を結ばせ刈り取るためには、それだけの時間が必要である。

 それと同じように、人種、宗教、文化など様々な違いを持った国々、大陸や半島、島嶼などがひしめいている全地球の諸国家を相手にするのは、それだけの時間と労力、そして、多くの国連参加の国々の協力が要るのは間違いない。

 分断国家出身の潘事務総長に期待されるのは、南北の平和統一と混沌とした世界を平和へ導く舵取りであり、リーダーシップである。
 

平和大使在日同胞フォーラム代表 鄭時東(チョンシドン)

【参考リンク】 国際連合事務総長(Wikipediaより)

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