83.未来の理想を見据えて

2017年2月1日

 現在の世界は、さまざまな困難が横たわっている。誰も、今後の世界がこのまま平和な状態でいられるかどうか、希望的な観測をすることは難しい状況である。

 世界情勢が混とんとしていることや経済が不安定で、格差による社会不安が拡大し、また犯罪や事件が多発していることがある。世界情勢では、アメリカのトランプ大統領の就任以降の次々に打ち出す大統領令の極端な法令がアメリカ社会を混乱に陥れるだけではなく、それがヨーロッパなどの民主主義各国に波及し、今後の見通しがつかない状況を呈している。

 このような状況は、ある意味では民主主義の政治制度が試されているということでもあるだろう。それは、また、民主主義の根底をなしてきたキリスト教の精神が問われていることにも通じている。

 民主主義思想は、人類歴史の中で、さまざまな戦争や試練、問題の山積の中で、磨かれ、そして、ベストではないけれども、ベターの政治思想として、世界の多くの国々が採用してきた。その政治制度と思想の金属疲労が起こり、また、耐用年数が経過して、擦り切れたり、摩滅して、現状に対応しにくくなっているのである。

 といっても、民主主義に代わる社会主義や共産主義が民主主義よりもベターかというと、それもまた、現在の世界情勢をみれば、明らかに民主主義よりも優っているとは思えないのである。

 これまで、社会主義や共産主義諸国が行ってきた政治は、多くの人々の犠牲を強いると同時に、人間の本性を抑圧する社会、人の自由を圧殺し、そして、理想となる平等社会ではなく一部の特権階級を潤すだけの欠陥をもった政治制度であることを露呈している。良い面もあったが、結果的には民主主義よりベストではなかったのである。

 では、今後、どのような政治体制や思想や宗教が人間社会にとって、ベストになるのだろうか。それはまだ、見えていない理想的な社会というしかないが、それを強調すれば、たんなる空想主義や現実をみない観念主義になりやすいことも確かである。その意味では、民主主義や共産主義よりもベストな政治思想やそれを説く人物は、まだ世界の地平線にわれわれが見られるような形では、現れていないといえるだろう。

 しかし、そのようなことを考慮しても、今後、われわれが求めるべき政治制度の中核となるべき思想や精神のありようだけは構想することができる。それは現在の対立や紛争、宗教や思想・民族、国境などの壁を超えた真の意味での真の民主主義であることは間違いない。

 人類が平和に共存共栄共生する社会を実現することができる思想であり、それはまた、グローバルな思想であると同時に、社会を構成する個人や家族、氏族など血縁共同体の枠組みを超えた精神革命、すなわち従来の人間の存在を変える革命的な思想であることは予想できる。

 というのも、現在の世界の混乱と混とんを生み出しているのが、人間のもつエゴイズムや欲望、憎悪、怒り、妬みなどの個々人のもつ本性の問題であるからである。だからこそ、古代ギリシアの哲学者・プラトンは、哲人の政治家による理想国家を説いたのであるが、しかし、あまりにも理想的かつ観念的であったので、それが失敗したことは歴史が示している。

 われわれは、こうした事実と経験をふまえつつ、新しい希望的な未来を、共存共栄共生の平和な世界を今や求めなければならないのである。人類が互いに弱者をいたわり助け合う人類一家族国家となる必要がある。

平和大使在日同胞フォーラム代表 鄭時東(チョンシドン)

【参考リンク】 プラトン

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