51.平和を構築する対話を

2014年6月1日

 ウクライナとロシアの領土問題が泥沼化している。

 クリミアだけではなく、ウクライナのロシア系民族が多い東部地域も、クリミアにつづき、住民投票などを通じて独立し、ロシアへ帰属しようとする動きを見せている。ウクライナの国内におけるウクライナ系とロシア系の民族の対立が、本格的な武力による対立と戦闘という内紛一歩手前にまで緊張が強いられているといっていい。このままでは、中東のシリアのような血で血を洗う内戦に発展しかねない一触即発の状態だ。

 この背景には、民族問題とともに、ウクライナをめぐるアメリカ・ヨーロッパとロシアの政治的な綱引きがあることはよく知られている。EUに加盟しようという民主主義勢力とロシアとの同盟を願う国内問題に、ウクライナ系とロシア系の民族の紛争が加わり、複雑な様相を加えているのである。

 冷戦時代を経て、ソ連帝国の解体、アメリカ・ヨーロッパを軸とした民主主義体制の勝利が終わりを告げ、超大国となった中国の拡張主義の台頭、ロシアの強権主義復活が、第二次世界大戦後、冷戦構造に続く新たな世界危機を迎えているのである。このまま何の手も打たずに進めば、最悪の場合、悲劇的な第三次世界大戦への引き金を引くような事態になってもおかしくはない。

 特に、問題なのは、ウクライナ問題で、それを平和的な解決へとリードすべきアメリカ・ヨーロッパ諸国を中心とした民主主義陣営の主要諸国が、G8への参加からロシアを排除するという「対話」の場から外すような処置をしたことである。たとえ、ロシアに問題があるとしても、公式な場からロシアを外すことは、問題の解決にはならないのである。むしろ、積極的にロシアを参加させ、対話を重ね、そして、妥協点を見出していくことが政治であり、平和を維持するための手段ではないのだろうか。

 会議の場から閉め出す(国交断絶なども)、あるいは経済的制裁を下すということは、これまでも行われてきた政治的な処置だったが、具体的な成果が得られたという話はあまり聞かない。もちろん、大きな打撃を与えることは間違いないが、それによって大きく政治的な解決が得られるということはあまりないのではないか。

 イランにしても、北朝鮮にしても、そして、古くはキューバなども、国交断絶や経済封鎖などの処置によって国家が崩壊したり体制が変わったというまでには至っていない。むしろ、その制裁によって、より国内はイデオロギー的に強固になったり、より戦闘意識が高まったりしている現状ではないか。そのような意味で、相手を恫喝するような制裁という手段は限界があることを認めなければならない。

 もちろん、制裁が無意味なわけではないが、それとともに、対話への道を大きく開き、その平和的な解決への道筋の維持を心がけ、倦まずたゆまぬ平和的な対話が続けられることが重要なのである。それは東アジア情勢においても変わらない。北朝鮮をめぐる核問題や南北の平和統一への道は、武力だけによっては根本的な解決はできず、対話による積み重ね、草の根交流などが南北平和統一、東アジアの平和を生み出すのである。

 それはまた、宗教や民族紛争における問題、食料・エネルギー問題等、国内のマジョリティーとマイノリティー、日本における在日コリアン、在日中国人などの在日外国人との平和共存にも通じる問題でもある。あくまでも対話を重ね、相互理解を深め、譲る面と譲れない面を明らかにし、未来志向の友好関係を構築しなければ、真の平和は訪れないのである。

平和大使在日同胞フォーラム代表 鄭時東(チョンシドン)


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