81.歴史から平和の教訓学ぶ

2016年12月1日

 春に種を蒔き、夏に育ち、秋に収穫をするサイクルから、一年の終わりは新しい年を迎えるための準備期間であり、反省と悔い改めの季節である。一年の終わりを迎え、これまでの期間を改めて回顧し、感慨深い人も少なくないだろう。こうした感慨を覚えるのも、アジアの気候風土の影響や大陸・半島・島嶼国家が農耕民族だからだろう。これは、稲作を中心とした農耕民族には、自然な感情である。

 そうした伝統文化が血肉の中に生きているからだが、これは騎馬民族や砂漠で育った人々には、わかりにくい感慨だろう。というのも、彼らの風土は石の文化であり、砂漠の風土のために、一年という短い時間で物事を考えることはなく、長期的な思考で物事を判断するからである。

 一年を振り返り、今年はまさに激動の時代であったという印象がある。世界的な情勢も政治も経済も、さまざまな波乱に満ちた1年ということが言える。政治的にみられるのは、イギリスのEU脱退やアメリカのトランプ大統領が当選したことが象徴するように、民族主義が世界的に台頭していることである。

 イギリスのEU脱退は、ヨーロッパ世界が作り上げてきた共同体の崩壊の序曲となる可能性があり、また、アメリカは過去のモンロー主義に退行する傾向が見られるのである。いいか悪いかは別として、これは世界的な傾向を示しているが、この民族主義の行く先はどこへ向かうのだろう。このままいけば、おそらく世界の各国は孤立主義にならざるを得ないことは間違いない。

 孤立主義の次には、おそらく世界平和よりも、自国だけが繁栄すればいい、というエゴイズム的な主義になり、未来への展望や平和を願うのではなく、いま現在だけが充足(幸福)であればいいという刹那主義的な世界観で支配されていくのではないか。そして、その果てにはちょっとした事件や事故で、紛争が起こり、それによって大きな戦争へ発展していく……そうした未来も考えられないわけではない。

 ちょうど1914年から始まった第一次世界大戦が、サラエボにて起こったオーストリア・ハンガリー帝国の皇太子夫妻の暗殺事件が引き金になったように、世界各地の紛争や対立がヨーロッパから、中東の火薬庫から、あるいはイスラム国から、宗教対立から、そして、アジアの北朝鮮、中国から勃発するかもしれない。そのような危機的な時代になっていることを改めて、この一年を振り返ると、認識させられるのである。

 しかも、先進諸国では少子化や高齢化の問題もあり、貧富の格差や福祉政策の破綻など、抱える国内問題も多い。益々内向きの国内重視の傾向に拍車がかかり、それが内なる格差や差別の温床になっていくことも考えられよう。

 国内問題には、マジョリティーとマイノリティーの共存問題も存在する。マジョリティーはマイノリティーに手を差し伸べ、マイノリティーもそれに甘んじることなく社会に貢献し、自立し、共生共栄の精神で、ともに繁栄する――それが願われることである。そうなれば、ヘイトスピーチのような排外的なこともなくなり、新しい平和な未来に向けてともに手を携えていくことができるようになるだろう。

 そこから平和が生まれ、ひいては世界の孤立主義を打破し、新たな平和な世界を生み出す原動力となることを信じたいと思う。

平和大使在日同胞フォーラム代表 鄭時東(チョンシドン)

【参考リンク】 ドナルド・トランプ

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