15.東アジア史と日本の絆

2011年6月3日

 国家同士の関係は、政治を中心に経済・文化交流などを加味しながら、国益を超えない範囲でお互いの妥協点を模索しながらなされる。

 いかに友好関係を維持していた国同士でも、国益を損なうまでして相手国との友好を維持し続けられるかどうかは難しい。その意味で、国家同士は何度も離合集散を繰り返す存在である。

 第一次、第二次世界大戦は、そうした各国の国益を基盤に、イデオロギーや思想、民族、宗教が対立した戦争だった。また、その結果、植民地化されていた東南アジアやアフリカの諸国家がその軛 (くびき)から解放された戦争でもあった。
 


▲ウィルソン大統領

 特に、アメリカのウイルソン大統領が第一次世界大戦以降に提唱した民族自決・民主主義が、国際連盟という実験を通じて、植民地解放の原動力や第二次大戦で戦後秩序の思想となり、国際連合誕生への端緒になったことは記憶に新しい。

 国際連盟の失敗は、アメリカがモンロー主義によって自国中心主義を取ったこと、また、第一次大戦の戦勝国がベルサイユ体制で敗戦国のドイツに巨額の賠償金を課し、それがためにドイツにヒトラーという独裁者を生む温床となったことなどがある。ドイツは第一次大戦の敗戦に賠償金を課せられ98年という歳月をかけて完済している。

 その後、ソ連を中心とした共産主義陣営とアメリカを中心とした民主主義陣営が核兵器の恐怖で対峙した冷戦時代が到来し、それもソ連崩壊によって東欧諸国にドミノ現象が生じ、民主化の波が世界を襲った。

 アメリカが一人勝ちと見えた時代が到来し、世界の警察国家として中東紛争やアフガニスタンなどに介入した。しかし、それも、サブプライムローンによる経済破綻などによって、アメリカの繁栄にも翳りが見え始め、現在は、中国の躍進によって、アメリカとの二大強国が対峙しつつある時代になっている。

 現在、日本が置かれた東アジア情勢は経済・軍事大国となった中国の世界戦略によって、その脅威を受けて流動化した政治状況を迎えている。中国の軍事力は、海洋国家の島嶼国家やアフリカ、中南米の国家へ豊富な援助資金を投じて、世界的なネットワークを作り上げている状況だ。

 東アジア諸国家の問題は、中国が伝家の宝刀である「中華思想」を軸に共産主義国家である北朝鮮、ロシアなどの周辺国家が提携を深めつつ、具体的に韓国や日本に対して、その包囲網を築きつつあることである。

 このまま無為な状態を続ければ、韓国も日本も中国の影響圏内に取り込まれ、独立国家としての体裁を維持できなくなる恐れがある。もちろん、多数の少数民族を抱えた中国は、自由を求める民主主義思潮によってチュニジアに端を発したジャスミン革命のように崩壊する可能性も否定できない。

 しかし、当面は、アメリカとの協調体制を深めると同時に、直接脅威と対峙している日本と韓国が緊密な関係を構築しなければならない。だが、その韓日関係は一衣帯水の関係とはいいながら、近現代の「不幸な関係」が尾を引いていてギクシャクした状態を未だ解決できないでいる。

 たとえば、両国間に位置する竹島(独島)の領土問題などはその代表的なものだ。この問題は、短期的に結論を急がず長期的展望で取り組むことが必要である。将来、韓日関係が成熟していけば、互いの国益を超えて妥協点をも見出すことができるようになる。

 しかし、中国を中心とした東アジアの流動化している情勢は、国家の存亡の危機を含んでおり、そのまま座視することができない。今後、日韓関係を緊密にし、同盟関係の絆を深くしていかなければならない。それは一衣帯水の国家として交流を結んだ韓日関係二千年の歴史を振り返れば、互いに歩み寄り理解し合えるのではないか。
 

▲王仁博士

 日本は韓半島を通じて渡来人を迎え、多くの文化的恩恵を被ってきた。百済から千字文と儒教を日本にもたらした王仁(わに)博士はその代表的な存在である。その後、日本は半島や大陸からの文物、人材交流を通じて発展し、日韓関係は長期的にみれば不幸な関係よりも、室町・江戸期の朝鮮通信使に見られるように平和で良好な関係を築いてきた。また、日本も近現代に至り、いち早く西洋文明の技術を学び、それによってアジアの近代化へ貢献した一面もある。

 今こそ日本と韓国は、この古代から近現代までの相互交流を思い起こさなければならない。
 

平和大使在日同胞フォーラム代表 鄭時東(チョンシドン)

【参考リンク】ウィルソン大統領(Wikipediaより)
【参考リンク】王仁博士(Wikipediaより)


このページの先頭へ