38.東方の光を予言したタゴール

2013年5月1日

 時に詩人は未来を予言するような言葉を語る。それはシャーマンや預言者が神からの霊感を受けて予言することと相通じるかもしれない。文学の女神もミューズ(ギリシア語でムーサ)に司られ、その霊感の源泉として崇められている。詩人の言葉はそのために古代から重んじられてきた。そのような予言的な詩人の一人にアジア人に初めて与えられたノーベル文学賞の詩人、タゴールがいる。

 タゴールは、1861年5月7日にインドのベンガル州で生まれ、1941年8月7日、80歳で没した東洋が生んだ偉大な詩人だった。タゴールは西洋で教育を受けたが、その魂は東洋の豊かな精神文明にあり、またイギリスの軛(くびき)で苦しんでいた祖国インドの独立を願った熱烈な愛国者であった。後に、インド独立のシンボルとなるガンジーの「マハトマ(偉大な魂)」という称号は、タゴールがつけたという説もある。

 タゴールは、西洋列強の侵略にあえいでいたアジアの希望として、明治維新以来驚異的な発展を遂げていた日本にたびたび来日した。それは日本を東洋文明の希望としていたためで、その日本が韓国を植民地にし、中国へその手を伸ばすと、悪しき西洋文明の影響で、「日本の伝統美の感覚を自ら壊すもの」である批判した。

 そのタゴールのもとに、1929年、当時、植民地下にあった韓国から一人の記者が訪ねて来た。「東亜日報」の記者が韓国訪問を要請されたときに、タゴールが送ったものが 「東方の光」(1929年4月2日付「東亜日報」に掲載)と題する詩だった。

「かつてアジアの黄金時代に/ともしびの一つであったKorea/そのともしびが再び明かりを照らす日には/あなたは東方の明るい光になるであろう/心には恐れがなく/頭は空高くあげられるところ/知識は自由で/狭い塀で世界がわけられないところ/真理の深いところから/み言葉が湧いてくるところ/絶え間のない努力が/人間の完成に向かって腕を開くところ/知性の清い流れは/固まった習慣の砂原に道を失っていないところ/無限に拡がりゆく考えと行動で /われわれの心を導くところ/そのような自由の天国に/我々の心の祖国Koreaよ/目覚めなさい!」

 この詩を通して、タゴールは韓国の人々を励ました。だが、この詩についてはさまざまな見解があり、「コリア」というのは後に捏造(ねつぞう)されたもので、タゴールの原詩にはない言葉を付け加えたというものがある。

 また、韓国でも、タゴールが日本にたびたび訪問し、日本を賛美していたという事実を知り、その激励が韓国にのみ向けられたものという熱狂を冷却させた。しかし、これらはタゴールの真意を誤解したものということができるだろう。なぜなら、タゴールは日本や韓国という個々の国へメッセージを発したというよりも、アジアの全部の国々、西洋列強の餌食となり、その軛(くびき)にあえでいたすべてのアジア人に向けた希望のメッセージと解釈した方がタゴールの精神の本質を示している。

 日本や韓国は、その象徴的な国であり、希望の国であったのだ。そして、タゴールは意識していたかどうかは別として、神からの霊感を受けて詩を書いてきたがゆえに、この「東方の光」もまた、知られざる預言の詩となっているのである。

 当時の植民地下の韓国が、これほど世界的に発展し、大国になることをタゴールが知っていたとは思われない。タゴールは、韓国から来た新聞記者に 「東方の光」の詩を与えたことは、神からの啓示であり、そして、そのメッセージは霊感を与えてくれた韓国へのみ向けられた言葉だったのである。

 タゴールの詩が捏造されたかどうかの証明は、過去に遡らなければわからない。しかし、タゴールが「神の人」であり予言者であったことは間違いなく、 その偉大な詩人が東洋の人々へ希望を与え励ましにあったことは確かである。

 東洋精神への回帰、それこそがタゴールの願った世界平和へのメッセージであり、マイノリティー、在日同胞や虐げられた者への労りと励ましであったことを知らなければならない。

平和大使在日同胞フォーラム代表 鄭時東(チョンシドン)

【参考リンク】 ラビンドラナート・タゴール(Wikipedia)

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