43.剣を溶かして平和を造る

2013年10月1日

 現代社会において、戦争や紛争の原因になっているのは、領土、民族や宗教、文化など様々なものがある。が、そのうちの大きな部分を占めるのに経済の問題、物質的な貧富の差、持てる者と持たざる者の格差、対立があるのは間違いない。

 貨幣という富をもっていれば、誰でも物質的に豊かな生活を送ることができるし、貨幣がなければ食糧を買うことも家をもつことも、結婚し家庭をもつことさえできない。豊かな社会であるアメリカのホームレス問題は、こうした貨幣社会(資本主義)の弊害が象徴的に表れたものである。

 かといって、労働によって平等社会を目指した社会主義・共産主義社会もまた、一党独裁による別な貧富の差、格差社会になっていることは、崩壊したソ連、そして、社会主義に資本主義を導入した中国をみれば明らかである。

 中国などは、経済大国として世界の大国のアメリカやロシアと肩を並べる存在となったが、その内部には貧富の拡大、汚職、少数問題などを抱え、いつ分裂してもおかしくはない不安要素を抱えている。その上、中国は軍事増強を続け、接する国々との国境紛争や衝突などを繰り返し、いつそれが本格的な戦争へと拡大するかわからない状態である。

 持てる者と持たざる者、それは一国だけの問題ではなく、世界全体の問題となっているといっていい。その意味で、これを解決するには、現代の世界が抱えている病巣を発見、正しい治療をしなければならないのである。すなわち、富の格差問題であり、現在の社会においては、その基本的な基礎となっているのは、貨幣である。

 ドルやユーロ、マルク、ポンド、円などによって世界が動き、その差によって、富める国と貧しい国が生まれているといっていい。貨幣がなければ、生きていくための日々の糧(かて)、食糧を買うことはもちろん、国家を守り繁栄させていくインフラさえ整えることができない。そうなれば、天候不順によって穀物の収穫がだめになり、栄養不良によって病気になっても医者にかかることもできず餓死するのを座視するしかなくなる。

 アフリカにおける飢餓問題、そして、それによって餓死していく多くの子供は、その代表的な問題である。また、人間は食べるだけでは満足できない存在であり、その上に豊かな精神生活、家族との平和に生きる喜びがなければ、人生の豊かな生活を送ることができない。その貧富の差を生み出す富の偏在、人間の紛争と戦争を生み出す貨幣、物質主義をいかに解決するにはどうしたらいいのか。それは一国だけではできないのは言うまでもない。

 そのために、世界を破滅的な破壊にまで陥れた第二次世界大戦の後に、世界の様々な問題を解決するためにグローバルな組織、国際連合が創設されたのである。その国際連合は、大国のみならず、独立した数多くの国々が参加して、同じ一票を投じることができる平等な価値観を共有している。しかし、現在、国際連合は、平和な世界をつくるという、その創設意図を十分に実現しているとは言い難い。

 世界平和というグローバルな価値観の前に、国家の国益がそれぞれ角逐するエゴイズムの争いの場であることも確かである。もちろん、国連の活動によって、様々な諸問題、男女平等への取り組み、子供の教育や病気の問題、自然や文化を守り維持する世界遺産の選定など、多くの成果を生み出していることも間違いない。だが、国連は国家間の争いを超えて世界平和を実現しなければならないという使命、その創設意図がある。

 平和を唱えるだけでは平和を実現することはできない。まさに、旧約聖書のミカ書四章三節にあるように、「剣(つるぎ)を打ち直して鋤(すき)とし、槍(やり)を打ち直して鎌(かま)とする」ことが国際連合を中心に世界各国に求められているのである。

平和大使在日同胞フォーラム代表 鄭時東(チョンシドン)

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