42.未来の友好平和を作る為に
未来を決定するのは、われわれが生きている現在の時間であり、それをどのように対処し、目的をもって行動するかによって未来がどうなるかが決定される。その意味で、現在を無視していけば、未来への希望をつなぐことはできないのは明らかである。現在、いまわれわれが抱えている問題を処理し、未来に備えなければ、未来もやはり現在の問題が尾を引き、かえってその解決が複雑になり難しくなるだろう。
テレビで、「今でしょ!」という言葉が流行しているが、それと同じように今ある問題から眼を背けて解決を先延ばしにすれば、解決は永遠に訪れないのである。もちろん、物事の中には時間が自然に解決することもあるので、一概にすべてを同列に考えることもできないのは言うまでもないが……。
ここにおいて、われわれは知恵を働かせる余地がある。温故知新という言葉もある。どうしたら、よりよい未来を見つけられるのか、少なくとも、現在の時点でその解決への種を蒔いておかなければならない。ただ対決し、性急に物事の是非を判断し結論をつけようとすれば、大きなひずみが生まれ、未来において、それが修復できないほどの傷になり、解決よりは対立と紛争へと発展するかもしれないからである。
そうなれば、互いに築いてきた相互の信頼関係が失われるのみならず、武器による戦いへと傾斜する可能性も否定できない。だからこそ難しい問題は知恵をもって対処しなければならないし、それは未来の世界の平和への道につながらなければならない。
そのためには、われわれは現在、すぐに解決できることと、未来志向のためにあえて問題を棚上げし、子孫にその解決をゆだねることも必要である。過去を絶対に忘れてはならないのは間違いないが、過去に執着することによって未来の平和友好を危うくすることはもっと危険である。
災害によって多大な打撃を受けた被災地の復旧に時間がかかるように、国同士の問題はそれだけの時間をかけなければならない。それが時間が自然に解決することの意味である。
このようなことを改めて考えるのは、現在の日本と韓国・中国に歴史認識の問題を通じて溝が深まっているからである。この問題を考えるためには、ただ感情的で民族主義的な歴史観を超えなければならないのは、もちろんだが、現在の時点ですべてを解決しようと性急に行動するのはもっと危険である。
歴史がそれを証明している。第一次世界大戦で敗戦国となったドイツが、その教訓として理想的な憲法であるワイマール憲法制定によって、国家再建の道を歩んだのはよく知られている。
その理想の憲法によって国家を運営していけば、世界平和が生まれるはずだったが、現実には逆にドイツはナチスによる軍事国家への道へと逆方向へ進んだ。理想的な国家目標が、国家の理想を実現するのではない。国民感情の多くが、その将来を左右するという現実を見つめる必要がある。
ドイツは、連合国によって、多大な賠償金を請求され、理想的な国家像が崩れ、その生活の苦しみから強い国家、軍事国家を望むようになった。弱者となった者を追い詰めれば、「窮鼠(きゅうそ)猫を噛む」ではないが、国民感情が民族主義へと傾斜していきやすいのである。そのことをわれわれは知らなければならない。ドイツの歩んだ道は他山の石ではない。
このことは、マジョリティーとマイノリティーとの関係にも通じる。多数派は、少数派に手をさしのべ、共に栄える道を歩んでこそ、平和のいしずえが生まれるのである。その意味で、在日外国人問題も真剣に考え、そして、共生共栄の道を共に歩めば、国家間の問題もおのずと解決への道が開かれるというべきである。
平和大使在日同胞フォーラム代表 鄭時東(チョンシドン)
【参考リンク】 | ワイマール憲法(ヴァイマル憲法) (Wikipedia) |